こんな方におすすめ
- 医者の言葉を「絶対」と感じてしまうことに不安を覚える方
- 自分や家族の健康を“自分の判断”で守りたい方
- 「延命」と「幸福」の違いを考えたい方
今回ご紹介するのは、医師・近藤誠氏による『大病院・手術名の嘘』という一冊です。
この本は単なる医療批判ではありません。現代医療の構造そのもの──すなわち「誰のための医療なのか?」という根本的な問いを、私たち一人ひとりに突きつけてきます。
私はこれまでにも近藤氏の著書を何冊か読んできました。氏は一貫して「がん治療の過剰さ」を訴えてきた医師であり、医療界では異端視される存在でもあります。ですが、彼の主張には“現場を知る人間だからこそ見えるリアル”があります。
今回この本を手に取ったのは、私自身の原体験があったからです。
子供の頃、テレビで見た逸見政孝さんの衝撃的な闘病報道。
そして2014年、母ががんで亡くなった出来事。
どちらも「がん治療とは何か」という問いを、私の心に深く刻みつけました。
Contents
がん治療は本当に人を救うのか?
現代の医療は「がん=すぐ治療」という流れが当たり前になっています。
手術・放射線・抗がん剤──この3つが「王道の治療法」として、多くの医師が患者に勧めます。
しかし近藤氏は、こうした“標準治療”にこそ大きな問題が潜んでいると指摘します。
●“数値が下がった=治った”という誤解
多くの患者や家族は、医師から「腫瘍マーカーが下がっています」と言われると希望を持ちます。
けれども、その数値の改善が「体の回復」とは限らない。
実際には体力が奪われ、免疫力が下がり、生活の質(QOL)が大きく損なわれていくケースが少なくありません。
●私自身の経験から見えた“違和感”
私の母もがん治療を受けました。診断から10か月、あらゆる治療を試みました。
しかし、治療が進むにつれてみるみる痩せ細り、笑顔が消え、会話の数も減っていきました。
最終的に亡くなったとき、私は「治療は本当に助けだったのか?」という疑問を拭えませんでした。
人間の体は「敵と戦うため」に作られているわけではありません。
がん細胞を“敵”として攻撃する医療の在り方そのものに、私は深い疑問を感じています。
医者は“サービス業”であるべきなのに
近藤氏が特に強調するのは、医者の本質的な立場です。
医師とは本来、「患者のために最も良い方法を提案するサービス業」であるはずです。
ところが、現代の医療現場ではその原点が失われています。
●“エビデンス至上主義”の罠
今の医療現場では「5年生存率」「エビデンス」「論文」という言葉が絶対的な価値を持っています。
しかし、それは必ずしも患者一人ひとりにとっての“幸せ”と一致しません。
論文で証明された「平均的な成功例」が、あなたにとって最適とは限らないのです。
●大学病院の出世構造と“白い巨塔”
大学病院では、医師が論文を量産し、学会で発表し、ポストを得ることで出世していきます。
そこでは、患者の声よりも「論文の数」「研究の成果」が優先される。
患者は“研究対象”として扱われることもある。
この構造が、医療の本質を大きく歪めているのです。
●本来の医師像とは
近藤氏が理想とする医者像は、江戸時代の“町医者”に近いものです。
患者の痛みを聴き、その人の生活背景まで考え、最も穏やかに回復できる道を探す。
それが「人を診る」医療です。
ところが現代は「データを診る医療」になってしまいました。
「がんもどき理論」と治療過剰の危険
近藤氏の代名詞とも言えるのが「がんもどき理論」です。
がんと診断されても、実際には生命を脅かすほど悪性ではない腫瘍が存在するという考え方です。
●“がん”ではなく“がんもどき”
こうした“がんもどき”は、進行も遅く、治療をしなくても寿命に影響を与えないケースも多い。
しかし、医師はそれを「がん」と診断し、すぐに手術や抗がん剤を勧めます。
結果として、患者は必要のない苦痛を味わい、命を縮めてしまうことすらあるのです。
●切除は本当に「正義」なのか
臓器の一部を切れば、たしかに腫瘍は減るかもしれません。
しかし、体のバランスを壊し、再発のリスクを高める可能性もあります。
人間の体は“全体でひとつ”。
「悪い部分を切れば治る」という発想は、あまりに短絡的ではないでしょうか。
●「治療しない勇気」も選択肢
がんが見つかったとき、多くの人は恐怖と焦りからすぐに治療を選びます。
でも本書は、「治療を受けない」という選択肢があってもいいと教えてくれます。
それは“諦め”ではなく、“自分の人生を自分で決める”という強い意志の表れなのです。
医療の閉鎖性と「レビュー文化」の欠如
私が最も強く共感したのは、医療業界の“閉鎖性”に対する批判です。
飲食店ならレビューがあります。
旅行サイトにもレビューがあります。
しかし、医師や病院に対しては、患者側が本音を言える仕組みがほとんどありません。
●「患者の声」が可視化されない構造
病院の実績は、論文や内部評価で決まります。
けれども、その数字は「実際にどれだけ人を救ったか」を示してはいません。
患者の体験が医療の評価に反映されないこと──
これこそが、医療が“人間中心”でなくなった最大の理由です。
●医師会という“がん”
近藤氏は、医療制度の裏にある医師会の存在も厳しく批判しています。
政治と結びつき、既得権益を守るために現状を変えない。
その構造が“医療のがん”になっているというのです。
私もこの意見には強く賛同します。
医師会が守っているのは「患者」ではなく「医者の利益」ではないかと感じます。
まとめ
『大病院・手術名の嘘』は、医療を“信仰”のように受け入れてしまった現代社会に対して、冷静に「本当にそれでいいのか?」と問いかける本です。
私自身、母の闘病、そして他の身近な人たちの死を通して感じたことがあります。
それは、「治療が人を救うとは限らない」という現実です。
医療は人を助けるためのもの。
しかし現実の医療は、人の尊厳を削ることすらある。
命の長さよりも「どう生きるか」「どう最期を迎えるか」という質を考えることこそ、本当の医療の役割だと私は思います。